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血液検査が正常でも貧血が…その理由は貧血の進行の仕組みにあった

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ここでは、貧血の進行の仕組みについてご紹介しています。もし「貧血のような症状があるのに、血液検査ではいつも範囲内で正常なんだけど…」というモヤモヤをお持ちの方は、ここにスッキリ要素があるかもしれません。

それではまず、貧血とはどのような状態なのかをかんたんに見ていきましょう。

貧血とは?

貧血とは、血液の中の赤血球が少なくなること、または、ヘモグロビンの濃度が低くなっている状態のことを言います。つまり、血液が薄い状態のことです。

あくまでも状態のことですから、最終的な診断名となることはありません。必ず原因があり、その原因ごとに種類が分かれます。

▼「貧血とは?」について詳しくはこちらで

最も多い原因が鉄分不足

貧血の種類の中で、もっとも多いのが鉄欠乏性貧血です。

ヘモグロビンの合成には鉄が必要ですが、その鉄が不足することで、ヘモグロビンの合成ができず貧血となります。

鉄欠乏性貧血は、月経によって定期的に出血がある女性に多く、鉄分が不足する原因はおもに2つあります。

原因その① 食事で補給できていない。

成長期や月経にともなって、1日に必要な鉄分の量は変わりますが、毎日これを食事によって補っていかなければなりません。

しかし鉄分は吸収率がとても悪いことで知られ、とくに女性においては、1日に必要な量を食事で補えていないのが現状です。

▼女性の鉄分摂取の状況については、下記の記事で詳しくまとめてあります。

原因その② 出血をともなう病気がある

婦人科系の病気や、消化管からの出血などが原因となって鉄分が不足しているケースがあります。代表的な病気は以下のとおりです。

  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜症
  • 子宮がん
  • 生理不順
  • 胃潰瘍
  • 十二指腸潰瘍
  • 胃がん
  • 食道がん
  • 大腸ポリープ
  • 大腸がん
  • クローン病
  • 直腸潰瘍

貧血の症状の強さ

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赤血球の数やヘモグロビン濃度が低ければ低いほど、貧血の症状が強いと想像しませんか?でも実際には、貧血の程度と症状の強さは一致しないようです。

貧血の程度と症状の強さは一致しません。慢性に経過した人は、びっくりするくらい貧血が高度でも歩いて来院されます。急性に進行した場合は、軽い貧血でも動けません。つまり、貧血の症状の強さを決めるのは、貧血の進み具合です。

引用:「熊本市民病院」貧血から始まる血液の病気について

このように、貧血の進行のスピードによって、症状が重かったり軽かったり、なかには自覚症状がなかったりします。

原因によって異なる進行

「原因その②」としてご紹介したような、何らかの病気が原因となっている場合は、急性である場合が多い、つまり進行が速い場合が多いです。治療はもちろん、その病気の治療が優先されます。

しかし、「原因その①」でご紹介したような、食事によって鉄分が摂取できていないことが原因の場合、進行はゆっくりで自覚症状がないことが多いため、血液検査などで貧血と疑われるまでは、自分が貧血だと気付いていない、もしくは貧血に向かっていると認識していない人が多いとされます。

外傷や、病気などによる急な出血で起こる貧血を除くと、体内の鉄分不足にともなって、ゆっくりと進行していく貧血がほとんどです。

その証拠の一つとして、鉄分がもっとも不足しやすい時期は思春期(妊娠・出産を除く)ですが、鉄欠乏性貧血を発症する年代でもっとも多いのは40代の女性です。

思春期という若い時期から鉄分不足は始まり、ゆっくりと進行していった結果、40代になって初めて鉄欠乏性貧血を発症します。いかにゆっくり進行していっているかが分かると思います。

貧血がゆっくり進行する理由は、私たちのカラダには、急に鉄がなくならないシステムがそなわっているからです。では次に、そのシステムについて見ていきましょう。

食べ物で吸収された鉄の行き先

食べ物によって体内に入ってきた鉄は、小腸にある「粘膜上皮細胞」というところで吸収されます。鉄はそのまま移動することはできないので、以下のようなたんぱく質のチカラを借りて、必要なところへ運ばれていきます。

  • トランスフェリン
  • セルロプラスミン
  • フェリチン

そして、全身に鉄が運ばれると、わたし達のカラダは鉄の蓄えを始めます。

この鉄の蓄えのことを「貯蔵鉄」といい、この蓄えがあるおかげで、食事でとるべき鉄分が足りなくても、急に貧血を起こさないのです。

貯蔵鉄は約25%

私たちの体内には3,000~5,000mgの鉄が存在します。そのうち約70%は血液中のヘモグロビン鉄として、約25%は貯蔵鉄として肝臓や脾臓に、残り約5%が組織鉄として、筋肉や皮膚などに分かれます。

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鉄は、脳や肝臓などの大事な臓器や組織に最優先に運ばれます。体内で必要な鉄分が足りないときは、貯蔵鉄であるフェリチンから使われます。

貧血の進行の仕組み【図】

下の図は、鉄分不足になると、体内の鉄がどのように失われていくのかを示したものです。つまり、鉄欠乏性貧血の進行の仕組みを図にあらわしたものです。

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貧血の進行の仕組みを解説

貧血ではない正常な人は「図.1」のように、フェリチン・赤血球・血清鉄・組織鉄の全てが満たされています。

鉄欠乏性貧血の進行とは、鉄分不足によって体内の鉄が失われていくことで起こります。つまり、図.1から図.5へと進んでくのです。

潜在性鉄欠乏性(隠れ貧血)

図.2にあるような、貯蔵鉄が減った状態を潜在性鉄欠乏性といい、隠れ貧血、貧血予備群などとも言われます。

一般的な血液検査ではフェリチン値は測りません。そのため、この段階では「貧血はない」ということになります。つまり、潜在性鉄欠乏性(隠れ貧血)は、一般的な血液検査では分からないのです。

フェリチンの基準値

男性(ng/ml) 女性(ng/ml)
参考基準値 21~282 5~157

この数値は下限が低いとされ、病院によっては、80以下を鉄分不足、30以下では重度の鉄分不足と判断しているようです。

ちなみにアメリカでは、フェリチン値100以下は鉄分不足とみなされ、40以下の女性は出産を許可されないそうです。

もし日本がアメリカと同じ基準であれば、出産を許可されない女性はどれくらいいると思いますか? 答えはなんと約6割以上です。

▼鉄分不足の現状について詳しく

「フェリチン値は測定されない」「血液検査は正常だから貧血と診断されない」これら2つの理由から、自分は鉄分不足だと認識していない人がほとんどです。

そのため、鉄欠乏性貧血は図の右へと進行します。その結果、貯蔵鉄という、鉄のストックがなくなってしまいます。

鉄の貯金がなくなり血清鉄から借金

鉄は人体に必須です。だから、図.3にように貯蔵鉄(鉄の貯金)がなくなったら、どこからか借金をしてこなければなりません。

脳や肝臓などの大事な臓器や組織から鉄を借りる訳にはいかないため、血清鉄という、血液中にある輸送中の鉄を使います。

血清鉄とは血清中に含まれる鉄分のことをいいます。血清とは、血液の中の血漿から凝固因子を取り除いた成分のことです。

▼【よくわかる図解付き】血清鉄と血漿の違い

血清鉄の一部は、トランスフェリンというたんぱく質と結合した状態で存在しています。このトランスフェリンの指標であるUIBCやTIBCも、血清鉄(Fe)と合わせて、鉄欠乏性貧血を診断するうえで重要な指標です。

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鉄の貯金がなくなり、血清鉄から借金しなければならない状態になると、当然、血清鉄の値が低くなります。

血清鉄(Fe)

血清鉄(Fe)は血清中の鉄の量を示します。

男性(μg/dl) 女性(μg/dl)
参考基準値 60~210 50~170

UIBC(不飽和鉄結合能)

UIBCとは、鉄と結合していないトランスフェリンです。

男性(μg/dl) 女性(μg/dl)
参考基準値 120~330 110~425

TIBC(鉄結合能)

TIBCは鉄に結合できるトランスフェリンの総量です。※TIBC=血清鉄(Fe)+UIBCとなります。

男性(μg/dl) 女性(μg/dl)
参考基準値 250~410 250~460

血清鉄が減ってきても貧血ではない

フェリチンと同じように、一般の血液検査では、血清鉄(Fe)、UIBC、TIBCは調べられません。ですからこの段階でも「貧血はありません」という診断になるでしょう。

貧血と診断されなければ貧血の治療はされませんし、鉄分が不足していることすらも自覚しないでしょうから、貧血はまた進行してしまいますね。

そうすると、やがて血清鉄すらも枯れていってしまいます。

「それでも鉄がないことには生きていけない。さて、どこから鉄を借りようか…」

ここでいよいよ赤血球の中のヘモグロビンから鉄を借りることになります。

ヘモグロビンから借金=貧血

こうなって初めて(図.4)、一般の血液検査での数値に変化が見られます。ヘモグロビンの鉄が使われることで赤血球が小さくなったり、ヘモグロビン濃度の低下などが現れてきます。

しかし、ここでもまだ確実に貧血と診断されるわけではありません。

なぜなら、貯蔵鉄がからっぽで、血清鉄も枯れてしまい、赤血球中のヘモグロビンの鉄を使っていても、まだ貧血の基準値を下回っていない可能性があるからです。

▼貧血の基準値については下記の記事をご参照ください。

こんな状態になっていても、まだ貧血の治療を行わなければ、鉄分を補給しなければ、貧血はさらに進行し、いよいよ図の一番右のような最終ステージに突入していきます。

貧血の改善は長期的に

図.4や5のような、貧血の進行の最終ステージから一番左の正常なレベルに行くのは大変です。

ヘモグロビンの値を回復するだけでなく、これまでの借金も全て返さない事には貧血が改善したとは言えないからです。

鉄剤を飲んで貧血がよくなり、血液検査所見が正常に戻ったら、からっぽになった貯蔵鉄を補うために、さらに6カ月くらい鉄剤の服用を続けます。貯蔵鉄を十分に補っておかないと、すぐに鉄欠乏状態に逆戻りしてしまいます。

引用:「貧血と血液の病気」浦部晶夫著 インターメディカ

さいごに

このように、一般的な血液検査で貧血を疑われるときには、もうすでに、かなり貧血が進行してしまっている状態です。血液検査の結果が範囲内であっても、本質的に貧血ではないから大丈夫と言いきれるのでしょうか?

女性であれば、かなりの確率で貧血は進行しているはずです。自分の体内の鉄はどのような状態なのか確認してみることを強くおすすめします。

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