日本貧血改善協会

ATP産生とエネルギー代謝の仕組み。鉄分の役割は造血だけじゃない!

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私たち人間はなぜ、生きていられるのでしょうか…?

このような疑問をもったことはありませんか? その答えはさまざまでしょうが、「食事などで定期的に必要な栄養素を吸収し、生命活動を維持するためのエネルギーをつくり続けているから」というのも一つの答えです。

つまり、私たちの体内には、こうしたエネルギーを作り出すためのシステムが備わっているわけですが、そのエネルギー代謝において欠かせない物質のひとつが鉄分です。

鉄分不足を解消するということは、貧血やうつ病などの改善だけではなく、生きるという根本的な部分においても、とても重要なのです。

また、精神(こころ)の状態をより良く保つためにも、鉄分は欠かすことはできません。

そもそもエネルギーとは?

私たちが生きていくうえで必要な動作すべてにエネルギーが必要です。当然、エネルギー不足は、生きることにかかわる全ての動作に影響を及ぼします。

生きるとは、エネルギーをつくり続けること、つまり「エネルギー代謝」のことをさします。

エネルギー代謝の基本について理解することで、なぜ鉄分が重要なのか、同時にビタミンやミネラルといった栄養素がいかに大切なのかがよく分かります。

エネルギー代謝について詳しく

一般的にいわれる栄養士失調とは「糖質過多・たんぱく質不足・ビタミン不足・そして鉄分を含むミネラル不足」の食生活によって引き起こされると考えられています。

なぜなら、このエネルギー代謝がスムーズに行われなくなるからです。

エネルギー代謝とは、食べものがエネルギーになる仕組みのこと。つまり、生き物が物質の代謝にともなって行うエネルギーの出入りと変換のことです。

エネルギー物質はATP

私たちがエネルギーとして直接利用できるのは ATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる物質です。

ATPは、全ての生物が共通して利用するエネルギー物質。つまり生命がある証しです。

火星に生物がいるかどうか調査した際に、探査機がATP 検出キットを装備していたことはよく知られています。

私たちが食事からとった栄養素によってつくられるものがATPという分子です。(ATP:アデノシン三リン酸。アデニン〔塩基〕と、リボース〔糖〕からなるアデノシンにリン酸が3つ結合したもの)

このATPがリン酸を放出し、ADP(アデノシン二リン酸)に変わる時に発生するエネルギーを使って筋肉を動かします。

ATPからリン酸が1つ外れたものがADP(アデノシン二リン酸)、リン酸が2つ外れたものがAMP(アデノシン一リン酸)といわれています。

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体内でつくられたATPからリン酸が1つ外れるごとにエネルギーが放出されます。

私たちが食事をするということは、このATPを作ってエネルギーをため込むということになります。つまり、上記の図の逆にあたります。

引用:「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった」藤川徳美著 光文社新書

エネルギー代謝の目的

エネルギー代謝の目的は、必要に応じてこのATPを作り出すことです。

私たちが食事からとった糖や脂肪が持つエネルギーは、そのままでは利用できません。ATPという分子に変換されて初めて使えるようになります。

ATPが十分につくられていれば、体が本来の動きをすることができ健康といえます。しかし、十分につくられなければ、体もどこか滞り健康ではなくなり、慢性的な病気を引き起こしてしまうといわれています。

エネルギー代謝の違い

エネルギーはおもに糖質と脂質からつくられますが、糖質と脂質ではエネルギー代謝に違いがありますが、まずは、糖質が材料となる場合のエネルギー代謝についてご紹介していきます。

糖質はおもに、ごはん類・パン類・麺類などに多く含まれています。炭水化物かた食物繊維を除いたものが糖質となりますので、その他、じゃがいもなどの炭水化物を多く含む食べ物にも比較的に多く含まれます。

食事によって得られた糖質は、主にグルコースとなり体内に蓄えられます。しかし、グルコースのままではエネルギーとして利用できないので、ATPへの変換が行われます。

糖質のエネルギー代謝の流れ

糖質がグルコースとなり、グルコースからATPを作り出すシステムは大きく分けて次の2つです。

  1. 細胞質内で行われる「解糖系」
  2. ミトコンドリアという細胞小器官内で行われる「クエン酸サイクル」と「電子伝達系」

つまり、食事によって得られた糖質はグルコースとなり、「解糖系」「クエン酸サイクル」「電子伝達系」の3段階を経てエネルギー(ATP)となります。

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解糖系でうまれるエネルギー

グルコースは、嫌気性解糖経路という、酸素がない状態で行われる解糖のシステムに入って、ピルビン酸という物質になります。ここでは、グルコース1分子あたり、ATPが2つ、ピルビン酸も2つ作られます。

1分子のグルコースから2 個のエネルギー(ATP)しか作られないわけですから、エネルギーの産生効率が悪いと思われるかもしれません。しかし、酸素を使わなくてもATPを作ることができるというところがポイントです。

瞬発力=解糖系からのATP

解糖系は、100m走や、重たいものを持ち上げる運動など、呼吸による酸素の供給が間に合わない状況でも、必要なATPを瞬時に作ることができます。

しかし、筋肉に蓄えられているグルコースの量には限りがあるので、解糖系だけのエネルギー供給では続きません。

私たちが瞬発力を必要とする運動をずっと持続できないのはこれが理由です。

ピルビン酸がアセチルCoAへ変わる

解糖系によってつくられたピルビン酸は、細胞内の小さな器官であるミトコンドリアへと入り、「アセチルCoA」という化合物に変わります。

このときに必要なのが、ビタミンB1・B2・B3(ナイアシン)・B5(パントテン酸)、アルファリポ酸です。

クエン酸回路と電子伝達系へ

次に、アセチルCoAはクエン酸回路というところに入りますが、この回路が1回転する間に、ATPは2つつくられます。この際に必要なのがビタミンB群やマグネシウム、そして鉄分です。

電子伝達系とは、酸素を必要とする好気性代謝といわれるもので、酸化的リン酸化という変化が起きます。ここでは、解糖系やクエン酸回路で生じたNADHやFADH2の力を利用して、さらにATPをつくります。

NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFADH2(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)は燃料分子の酸化におけるおもな電子の運び手である。ミトコンドリアの内膜の電子伝達系によって、そのポテンシャル(エネルギー価)の高い電子をO2へ移す。これが次にATP(アデノシン三リン酸)合成へと進む。この経路は酸化的リン酸化とよばれ、好気性生物のATPのおもな供給源となっている。

引用:「コトバンク」日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

最終的に、クエン酸回路と電子伝達系で、ATPは合わせて36個つくられるといわれてます。

マラソンなどはクエン酸回路からのATP

「クエン酸回路+電子伝達系」はすごく効率がよいですが、酸素がなければ回らないという特徴があります。そのため、酸素があるかないかで、「解糖系」か「クエン酸回路+電子伝達系」のどちらをメインで使うかが決まります。

例えば、マラソンのような有酸素運動では、酸素を取り込み、うまくクエン酸回路を回すことが必要です。

大切なのは、この電子伝達系でも、鉄分が必須であるということです。

 脂肪酸が材料の場合

脂肪酸とは脂質の構成成分のひとつです。脂肪酸が材料となるエネルギー代謝についてご紹介します。

糖質(グルコース)が材料となる場合では、解糖系を経てミトコンドリア内に入り、アセチルCoAという化合物になりますが、脂肪酸の場合は、直接ミトコンドリア内に入りアセチルCoAとなってクエン酸回路へと入っていきます。

脂肪酸からつくられるATP

脂肪酸が材料の場合にできるATPの数は、炭素数によってちがいます。例えば、炭素数が16の脂肪酸であるパルミチン酸の場合は、クエン酸回路と電子伝達系でATPは129個もできます。

糖質(グルコース)の場合が36個でしたから、脂肪酸がとても高エネルギーであることがわかります。

エネルギー代謝に欠かせない食べ物とは?

エネルギー代謝に欠かせない食べ物とは、糖質(グルコース)がミトコンドリア内でアセチルCoAに変わる際に必要な、ビタミンB1・B2・B3(ナイアシン)・B5(パントテン酸)、アルファリポ酸を多く含む食べ物。

また、糖質・脂肪酸ともにクエン酸回路や電子伝達系統で必須なマグネシウムと鉄分を多く含む食べ物です。

ATP産生に効果的な食べ物

エネルギー代謝の過程において、ATPをつくりだすために必要不可欠な栄養素を多く含む食べ物を、日本食品標準成分表2015年版(七訂)を参考にご紹介します。

ビタミンB1を多く含む食べ物

食品名 成分量(mg/100g)
 米ぬか 3.12
ぶたヒレ(生) 1.32
まいたけ 1.24
ぶたモモ(生) 1.01
ごま 0.95

ビタミンB2を多く含む食べ物

食品名 成分量(mg/100g)
ぶたレバー(生) 3.60
うしレバー(生) 3.00
焼きのり 2.33
まいたけ 1.92
魚肉ソーセージ 0.60

ビタミンB3(ナイアシン)を多く含む食べ物

食品名 成分量(mg/100g)
まいたけ 64.1
インスタントコーヒー 47.0
米ぬか 34.6
ビンナガマグロ(生) 20.7
うしレバー(生) 13.5

ビタミンB5(パントテン酸)を多く含む食べ物

食品名 成分量(mg/100g)
とりレバー(生) 10.10
乾燥しいたけ 7.93
ぶたレバー(生) 7.19
うしレバー(生) 6.40
なっとう 3.60

アルファリポ酸を多く含む食べ物

α-リポ酸は体内で合成することができ、一般食品中の含量はとても少なく、通常の食事から摂取する量はごくわずかと考えられています。

マグネシウムを多く含む食べ物

食品名 成分量(mg/100g)
あおさ 3200
乾燥わかめ 1100
米ぬか 850
ごま 360
きなこ 240

鉄分を多く含む食べ物

鉄分を多く含む食べ物に関しては、以下の記事をご参照ください。

 最後に

鉄分はエネルギー代謝において必要不可欠なものです。鉄分を積極的に摂取して、十分なエネルギー(ATP)をつくりだすことを意識した食生活を心がけていきましょう。

また、鉄分は、セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質をつくる酵素の補因子としても働いています。

ですから、体内の鉄分がふえると、これら神経伝達物質が適切に分泌されるため、

  • 思考が柔軟になる
  • イライラがなくなる
  • 仕事の効率もよくなる
  • 体調が良くなるとストレスも減る

など、悩みも減ることで良い循環が生まれ、家庭・職場・学校の中などでも無意味な衝突もなく、円満な生活へとつながります。

参考書籍:「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった」藤川徳美著 光文社新書

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