「巨赤芽球性貧血」には、ビタミンB12欠乏、葉酸の欠乏というおもに2つの原因があります。それぞれの原因・症状・治療の方法について詳しくご紹介します。
赤血球の数が基準値よりも少なくなってしまう事を貧血といいますが、その原因は大きく3つにわけることができます。
- 赤血球の材料が足りない
- 骨髄の造血幹細胞が少ない
- 造血の過程において何らかの異常がある
※造血とは、赤血球などの血液細胞が作られること
ここでご紹介する「巨赤芽球性貧血」は、「1.赤血球の材料が足りない」ことで起こります。
赤血球は、ほかの細胞たちと同じように、水やタンパク質、脂質といった物質からできています。その一方で、ある少しの栄養素に、赤血球をつくるうえで重要な役割があるとされています。
特に、カラダの中ではつくられない、鉄・ビタミンB12・葉酸は、赤血球をつくるために欠かすことができない栄養素です。その中で、ビタミンB12・葉酸が不足することで起こる貧血が「巨赤芽球性貧血」です。
▼鉄分が不足する事で起こる貧血についてはこちら
ビタミンB12、葉酸が不足すると?
正常な赤血球を作るためには、ビタミンB12や葉酸の助けが必要です。これらのどちらかが不足してしまうと、赤血球をつくるためのDNA合成ができにくくなります。
その結果、骨髄の中の赤芽球という、赤血球もとになる細胞が巨大化してしまいます。
赤芽球というのは、例えるならまだ子供の赤血球で、この子が成長して大人になることで酸素を運ぶことのできる赤血球となります。巨大化した赤芽球は大人の赤血球になれません。
大人になれなかった赤血球は死んでしまう
巨赤芽球性貧血はビタミンB12または葉酸の欠乏、薬剤などにより赤芽球をはじめとする造血細胞のDNA合成障害を病因とする一連の症候群の総称である。この状態で発生した血球は正常に成熟する事ができず、骨髄内でアポトーシスを起こし破壊され、無効造血が起きる。
無効造血というのは、赤血球になる前にアポトーシス(細胞死)をおこしている状態のことです。つまり、大人になれなかった赤血球は骨髄の中で死んでしまうわけです。
また、巨赤芽球性貧血というのは、ビタミンB12が不足して起こる貧血と、葉酸が不足して起こるものを総称して言います。
巨赤芽球性貧血の原因
巨赤芽球性貧血のおもな原因は次の3つです。
- ビタミンB12が不足
- 葉酸が不足
- 抗がん剤などの影響により、DNAの合成に悪影響
ビタミンB12が不足する原因
ビタミンB12は肉や魚といった動物性たんぱく質に含まれる栄養素です。
それらの食べ物により、カラダの中に入ってきたビタミンB12は、胃から分泌されている「内因子」という物質と結びつく事で吸収されます。
この「内因子」がないと、どれだけビタミンB12を含んだ食べ物をたくさん食べても、カラダへの吸収はできません。
ですから、胃を手術で摘出してしまうと、この「内因子」が出なくなって、ビタミンB12を吸収する事ができません。
逆に、胃があるのにもかかわらず、内因子が出なくなってビタミンB12が吸収できなくなってしまう病気を「悪性貧血」と言います。
悪性貧血では死んでしまう人もいた
なぜ「悪性貧血」という名前がついたのかというと、昔は「ビタミンB12」が発見されていなかったので、治療方法がなかったため、治す事がとてもむずかしく、それにより死んでしまう人もいました。
しかし1948年、アメリカのフォルカースという学者さんたちによって、ビタミンB12は発見されました。これによって。問題となっていた貧血の原因がビタミンB12が足りなくて起こるものとわかり、現在では治療することは簡単な病気になっています。
悪性貧血は高齢者に多い
悪性貧血が高齢者に多い病気です。多くの場合、「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」という病気が見られます。
これは、症状はひどくはないものの長期間にわたって胃炎が続き、胃酸を出す「胃腺」というところが小さくなってしまうことで、そこからでてくる胃の粘膜が薄くなってしまう病気です。この病気がある人は、将来的に胃がんになりやすいと言われています。
悪性貧血の症状
悪性貧血の症状は、一般的な貧血の症状にプラスして、舌の表面がツルツルになって酸っぱいものがしみたり、痛くなったりする「ハンター舌炎」がおこります。その他、足がしびれてしまったり、髪の毛が白髪になってしまったりします。
葉酸が不足する理由
葉酸とは、水に溶けやすいビタミンB群のひとつです。ほうれん草やブロッコリーなどの、植物の緑の葉の部分に多く含まれます。
極端な偏食で緑黄色野菜を全く食べないという人だと、当然のことながら葉酸は足りなくなっていきます。
またアルコール依存症の人にも多く見られることもます。
溶血貧血が生まれつきにある人は、葉酸が必要とされる量が多くなるため、葉酸が足りなくなることがあります。
妊娠中の葉酸不足には要注意
妊娠中は、カラダが葉酸を吸収するスピードが遅くなってしまいます。おなかの中の赤ちゃんは成長するにつれ、お母さんの葉酸を消費します。さらに、つわりによって食欲が落ちたり、はくことで葉酸を失ったりします。
特に妊娠初期に葉酸が不足すると、赤ちゃんの神経管の発達に悪い影響を及ぼし、脳や脊髄(せきずい)に障害が起こるリスクが高まるといわれています。
葉酸はとりすぎもNG
通常は不足しにくい葉酸も、妊娠中は不足する可能性が高まります。しかし、葉酸のサプリメントなどを利用している人などは特に、葉酸のとり過ぎに注意です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、さまざまな栄養素の1日あたりの推奨量や、耐容上限量がさだめられています。耐容上限量とは、これを越えると健康を害するリスクが高まりますよという数字です。
こと葉酸においては、2010年から2015にかけてこの耐容上限量が大きく変更になりました。
2010年[27µg/kg 体重/日]
↓
2015年[18µg/kg 体重/日]※共に女性
葉酸の過敏摂取は発疹・ぜんそく・睡眠障害、産まれてくる赤ちゃんのぜんそくなどの可能性が高まると言われています。
葉酸が不足することによる症状
葉酸が足りなくなることで起こる症状はいかのようなものがあります。
- 口の中の痛み
- 舌が赤く腫れてしまう
- 味覚が低下する
- うつ
- 認知症
巨赤芽球性貧血の治療
巨赤芽球性貧血の治療については、ビタミンB12が足りていない場合と、葉酸が足りていない場合とで違います。
ビタミンB12が足りない場合の治療方法
ビタミンB12が足りていない場合の補充は、飲み薬か注射が一般的な方法です。
ビタミンB12の補充をするためには、長期間の治療が必要になってきます。そのため、飲み薬の場合は、たくさんの量を毎日飲み続けなければならないことに対して、注射はその必要がなく、一定期間で数回の注射で済むため、治療では注射を用いることが一般的です。
葉酸が足りない場合の治療方法
葉酸が足りない場合は、葉酸を飲み薬で補充することが一般的です。また、葉酸が不足している理由が、食事の偏りにある場合は、食生活を改善する必要があります。
▼ビタミンB12・葉酸を多く含む食べ物は以下の記事で詳しくご紹介しています。
まとめ
「巨赤芽球性貧血」というのは、ビタミンB12欠乏による貧血と、葉酸欠乏による貧血を総称して言います。
ビタミンB12欠乏の原因はおもに2つです。
- 胃の摘出によって「内因子」が出なり、ビタミンB12が吸収できなくなる
- 胃はあるが「内因子」が出なくり吸収できなくなってしまう
2.の場合の病気を「悪性貧血」と言います。悪性貧血は萎縮性胃炎によって胃の粘膜が薄くなりビタミンB12が吸収できなくなるケースが多いです。
ビタミンB12欠乏の代表的な症状は3つです。
- ハンター舌炎
- 足がしびれる
- 白髪
ビタミンB12欠乏の治療では注射を用いることが一般的です。
葉酸欠乏の原因はおもに4つです。
- 極端な偏食
- アルコール依存症(とりすぎ)
- 溶血貧血が生まれつきにある
- 妊娠によって葉酸必要量が多くなったが不足
葉酸欠乏による代表的な症状は以下の5つです。
- 口の中の痛み
- 舌が赤く腫れてしまう
- 味覚が低下する
- うつ
- 認知症
葉酸欠乏の場合は、葉酸を飲み薬による治療と、偏食が原因の場合は食生活の改善が必要です。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう