貧血に悩む人や妊娠中の人。その他鉄分不足を自覚している人にとっての鉄過剰症は、鉄分を摂取していこうとする意識のブレーキにもなりかねません。
普段の食事で鉄分過剰になることはない言われていますから、普段の生活において鉄分の摂り過ぎについて心配する必要はないのかもしれません。
しかし、積極的に鉄分を摂取しようと心がけている人にとって、鉄過剰症とはどのようにして起こるのかという事は気になるところかと思います。
この記事を読むことで、体内の鉄の基本的な働き方と吸収についてについて知ることで、鉄分の摂り過ぎによる鉄過剰症とはどのような事なのかが理解できます。
それでは最初に、鉄の働き方について見てみましょう。
体内での鉄の働き方
鉄過剰症について理解するためには、体内での鉄の働き方について知る必要があります。
健康な人の体のなかには、約3,000~4,000mgの鉄はあります。そのうち約2/3はヘモグロビンと結合した状態のヘム鉄です。残りの約1/3フェリチンなどの貯蔵鉄です。
鉄は血液をつくること以外にも、私たちが生きていくうえで欠かすことのできない大切な役割があります。
ヘム鉄と非ヘム鉄
同じ鉄分でも、水溶液中では2価鉄(Fe2+)と3価鉄(Fe3+)とがあります。
鉄分を食品から摂取する場合、動物性の食品に含まれるヘム鉄(2価鉄とポリフィリンと呼ばれるタンパク質からなる)と、植物性の食品に含まれる非ヘム鉄(ヘム鉄以外)とがあります。
食事に含まれる鉄の多くは3価鉄です。口から体内に入ると、消化管内で還元されて2価鉄となり、十二指腸から吸収されます。
逆に言うと、鉄は2価鉄に還元されないと吸収されないという事です。
ですから、ヘム鉄と非ヘム鉄では吸収率が違い、ヘム鉄では10~20%、非ヘム鉄1~5%と、5~10倍もの違いがあります。
▼鉄の種類について
鉄の多くはたんぱく質と結合する
十二指腸から吸収された鉄は毛細血管へと入り、血液中で鉄を運ぶためのたんぱく質であるトランスフェリンと結合します。
そして、一部の鉄は骨髄でヘモグロビンの合成のために使われたあと、赤血球に取り込まれて全身に酸素を運ぶ役割をもっています。
残りはフェリチンとして貯蔵されます。
鉄分は、とくに吸収されにくい栄養素として知られていますが、その吸収のしくみが明らかになってきたのは最近の事です。
たんぱく質と結合していれば毒性がない
体内の鉄の多くはトランスフェリンを結合していますが、結合していない自由な鉄は毒性がありますので、増えすぎると困ります。
たんぱく質と結合していれば毒性はないようです。
これらの事をふまえて、鉄欠乏性貧血と鉄過剰症のどちらを気をつけるべきかについてご紹介していきます。
2種類の鉄過剰
体内の鉄が増えるという事は、次の2つのことを考えなけらばならないようです。
- 結合していない自由な鉄の過剰
- たんぱく質と結合したフェリチン値の高値
そして、鉄過剰症の原因のひとつである鉄剤投与については、「静脈注射」と「経口投与」の2種類があることも、分けて考える必要があります。
静脈注射での鉄剤
鉄剤の静脈注射は、重度の貧血と診断されたときなどに行われます。直に注射をすれば手っ取り早く増やすことはできます。
しかし、何回も静脈注射をすることは、鉄過剰症のおそれがあるとされています。
食事やサプリメントなどで口から入った鉄は消化吸収の過程でたんぱく質と結合するとご紹介しました。
しかし静脈注射では、たんぱく質に結合していない鉄をそのまま血中に投与することになってしまうからです。
自由な鉄が増えすぎると…
体の中に、たんぱく質と結合していない自由な鉄が増え過ぎると、活性酸素という物質の産生を促進させてしまいます。そうなることで細胞が傷害され、さまざまな臓器に影響を及ぼします。
口から入る鉄剤
鉄剤が口から入る場合は、必要な量だけがたんぱく質と結合し吸収されます。必要量以外は便と一緒に排出されるため、経口投与での鉄過剰は、論理的にはないと言われています。だから、口から入る鉄によって鉄過剰症にはなりにくいと言われています。
日常生活で鉄過剰が気をつけるべき?
鉄過剰症を招くときは、鉄剤の静脈注射を何度も繰り返したり、鉄分が足りている男性などが毎日にように鉄剤を服用したり、骨髄異形成症候群(MDS)や再生不良性貧血などによって定期的な輸血が必要な場合です。
静脈注射の鉄剤も輸血も、医師の指示なしで行う機会はないと思います。
ですから、日常生活の食事において鉄分の摂り過ぎについて意識する必要はないと思います。
さいごに
しかし、鉄分不足に陥っている女性の場合は口から食べ物によって鉄をとるかぎりは鉄過剰症の心配はないとされています。
欧米では、フェリチン値100未満は鉄分不足とされていますが、15~50歳の日本人女性、その99%はフェリチン値が100未満です。
それから考えると、注意すべきは鉄過剰ではなく、鉄分不足の方なのかもしれません。
参考文献
- 「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった」藤川徳美著 光文社新書
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