鉄分は、人間を含むすべての生き物において大切な役割があります。体内には、成人男性で約4g、成人女性で約2.5という、パチンコ玉1個にも満たない量の鉄が、私たちの健康のカギを握っているのです。
では具体的にどのような働きをしているのか、鉄分の代表的な3つ役割についてご紹介します。まずは、いかに鉄が貴重な存在なのかから見ていきましょう。
地球は「鉄の星」
話は大きくなりますが、私たちの住む地球は何からできているのでしょう?
地球の個体部分のほとんどは、マグネシウム、ケイ素、鉄とその酸化物。この中でもっとも多いのが鉄で、地球の総重量の約30%を占めます。
鉄は地球重量の約30%を占め、その可採埋蔵量は約2,320億トンと、他の金属と比べて格段に多い。
太陽系の惑星の中でも特に鉄の比率が高く、地球は「鉄の星」だとも言われています。
鉄が無ければ人間は存在しなかった!?
私たちが生きていくうえで酸素を欠かすことはできませんが、地球ができてしばらく、酸素は存在していませんでした。そのころ存在していた生物は、嫌気性微生物という酸素を必要としない生物です。
その後、シアノバクテリアという、光合成(酸素を排出)を行う微生物が増殖し、地球上に酸素が発生したと言われています。
酸素は猛毒だった
嫌気性生物にとって酸素は猛毒です。
私たち人間において、病気や老化の原因となる活性酸素がありますが、これとは比べものにならないくらいの猛毒だったとされています。
しかし、地球の誕生当時、酸性雨により地表の鉄分が鉄イオンとして海に入っていました。そして、シアノバクテリアが排出した酸素と結びつき、水に溶けない「水酸化鉄」として、海底に蓄積されていきました。
もし海水中に鉄がなかったらどうなっていたでしょうか? 嫌気性微生物は、猛毒である酸素によって死滅していたことでしょう。つまり、生物が存在できなかったという事になります。
動物の祖先「好気性微生物」の誕生
こうしてできた「鉄鉱床」が地殻変動によって隆起し地上に現れたのが、現在の世界各地にある鉄鉱石の鉱山です。
地球が誕生し鉱山ができあがるまでの数十億年という長い期間で、生物は体内に「酸素を有効に活用するためのシステム」を構築しました。
やがて、ミトコンドリアなどの好気性微生物が誕生し、(※)真核生物へと進化していきます。つまり、私たちは鉄のおかげで、酸素を活用できる生命体へと進化できたわけです。
(※)真核生物
生物の二大群の一。細菌類と藍藻類を除く大多数の生物を含む。その細胞は核膜に包まれた核を持ち有糸分裂を行う。 → 原核生物
引用:「Weblio 辞書」
鉄には2種類のイオン状態
酸素をエネルギー源として使えるようになったことで、生物はとても大きなエネルギー源を手に入れました。生物内で、鉄は2種類のイオン状態(2価鉄と3価鉄)があり、とても重要な役割を担っています。
代表的な鉄分の3つの役割
鉄分は、私たちの体の中でとても大切な働きをしています。なかでも鉄分が大きく関わっている、代表的な体の働きは次の3つです。
- 酸素の運搬と二酸化炭素の回収
- エネルギー産生
- 神経伝達物質の分泌
鉄の働きを知るうえで、まずおさえておきたいことは、鉄の性質についてです。
酸化と還元
鉄は、酸素との反応がとても良いという特徴があります。空気に触れるとすぐに錆びるのはそのためです。
これを「酸化」といいます。
しかし、錆びた鉄を溶かすと、酸素は飛びすぐに元のきれいな鉄にもどります。
これを「還元」といいます。
この酸化・還元反応は私たちの体のなかでも常に起きている現象です。
酸素運搬と二酸化炭素回収の働き
私たちが常に行っている呼吸。この、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出すというのも、酸化・還元反応のひとつです。
呼吸によって取り込まれた酸素は、2価鉄を含む色素「ヘム」と、たんぱく質「グロビン」からなる「ヘモグロビン」によって全身に運ばれます。
このヘモグロビンの中心にある鉄は、酸素が多いところでは酸素と結びつき、酸素が少ないところでは酸素を解き放って二酸化炭素を取り込みます。
この仕組みによって、適切な量を適切な場所へと酸素を運んでくれているのです。
エネルギーの産生
運ばれた酸素によって体の隅々でエネルギーが作り出されますが、このときにも鉄の性質が大きなカギを握っています。
心臓を動かす、筋肉を動かすなど、すべての行動に対してエネルギーは必要ですが、その際の重要な物質にATPというものがあります。
私たちのエネルギー源は食事。つまり、食事からとった糖や脂肪からATPを生み出すことで体を動かすことができています。
この、食事からATPを生み出す過程において鉄分は必須なのです。
▼鉄分とATP産生の関係について詳しくご紹介しています。
神経伝達物質の分泌
私たちの体の中でもっとも酸素を多く必要とするところ、それは「脳」です。
鉄分は、「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「セロトニン」といった神経伝達物質の合成にも必要不可欠です。
鉄分は、これら神経伝達物質がつくられる際に必要な酵素の補因子として機能しています。
神経伝達物質とは、心身のバランスを保ってくれているもの。鉄分が不足することで、神経伝達物質も不足することになります。
その結果、情緒不安定や片頭痛、うつ病やパニック障害、認知症などの原因になるとも考えられています。
▼鉄分と神経伝達物質の関係について詳しくご紹介しています。
その他の鉄分の働き
その他、鉄分は体の免疫にも関わっています。
免疫機能の最前線にいるのはリンパ球や白血球です。鉄分が不足すると、これらのの働きが鈍くなり、抵抗力が低くなってしまうと言われています。
また、皮膚や筋肉、髪の毛など、あらゆる部位に含まれるコラーゲン。この産生にも鉄分は必須です。
アミノ酸の酸化反応によってコラーゲンがつくられますが、その酸化反応には補因子として「鉄」も必須です。
最後に
ここまで、鉄分の役割とその働きについてご紹介してまいりました。
鉄分には、健康面、精神面、美容面においてとても大切な役割があることがお分かりいただけたかと思います。
体内の鉄分が十分に働いてくれるかどうかで、私たちの美と健康は左右されるといっても、決して言い過ぎではないのかもしれません。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう