血液検査の結果「あなたは貧血です。」となっても、それで何かの治療法や対策の方法が見えてくるわけではありません。さらに検査を進め、なぜヘモグロビンが少なくなっているのかを特定していく必要があります。
一般的に貧血を調べる方法は血液検査です。血液検査で貧血の有無を判断するためには、赤血球の数、ヘモグロビン濃度、血液全体での赤血球の割合など、いくつかの項目が必要です。
貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が基準値よりも低いこと。つまり血液が薄い状態のことを言いますから、ある一つの病名ではありません。
血液が薄くなる原因はさまざま。なぜそうなっているのかを特定しないことには、具体的な治療の方法や対処法などが見えてこないのです。
貧血は原因ごとに種類があり、なかには原因がはっきりしないため、治療方法も確立できず難病に指定されているものもありますが、貧血の約70%と大半を占めるのは、鉄分不足が原因の「鉄欠乏性貧血」です。
食生活が豊かな現代でも、減るどころか増え続けている鉄欠乏性貧血。ここでは、鉄欠乏性貧血と診断されるまでのガイドラインと、代表的な検査項目について分かりやすく解説しています。
貧血の検査はまず内科?
貧血の検査と聞くと、循環器科が良いのではないかと思われる方も多いかもしれません。しかし、貧血にはいくつもの原因がありますから、最初から専門科に診てもらうよりも、まずは内科で詳しく調べてもらい、もし他に病気があったら、その専門に行くことが良いとされています。
貧血と診断された場合、多くの場合で、まずは鉄欠乏性貧血かどうかの検査が行われます。鉄分不足が原因なのか、またはなぜ鉄分が不足しているのかを特定してもらうわけですが、もし、鉄分分不足の原因が、消化器の病気だった場合は消化器科。婦人科系の病気であれば婦人科など、専門科にいくべきかどうかの判断を内科でしてもらうというわけです。
血液検査の費用は?
貧血を調べるための血液検査の費用は、検査する項目数によって違いがありますが、1,400円~5,000円くらいが一般的です。調べる項目の数などによって費用は変わります。
これに診察費用などが加わってくることかと思いますので、検査を受ける予定の病院に問い合わせて、事前におおよその費用について把握することも大切です。
貧血と診断されるときって?
貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が基準値よりも低いことなので、貧血の検査では、まずヘモグロビン濃度が最大の指標になってきます。血液検査の結果では「Hb」や「HGB」、「血色素量」などとあらわされます。
ヘモグロビンの参考基準値
世界保健機関(WHO) ではヘモグロビン量の基準値を以下のようにさだめています。
年齢・性別などにおける基準値(g/1dl) | |
幼児・妊婦 | 11.0未満 |
思春期男女・成人女性 | 12.0未満 |
成人男性 | 13.0未満 |
▼基準値については検査機関などによって違いがあります。
その他の基本的な検査項目
貧血と診断されるにあたって、ヘモグロビン(血色素)の量がもっとも大きな指標にはなりますが、次の2つも基本的な検査項目となります。
- RBC
赤血球の数 - Ht(ヘマトクリット)
血液全体に占める赤血球の割合
RBCとHtの参考基準値
基準値はあくまでも目安です。基準値外だから即病気ではなく、医師による問診や診察などと合わせて判断されます。ここでは、全国健康保険協会が発表している参考基準値をご紹介します。
項目 | 参考基準値 | 単位 |
RBC(赤血球の数) | 男:400~539 女:360~489 |
×1万/mm3 |
Ht(赤血球の割合) | 男:38.0~48.9 女:34.0~43.9 |
% |
貧血の種類を特定する
貧血と診断される基本的な項目は「ヘモグロビン」「赤血球の数」「赤血球の割合」です。これらが基準値を下回ることで貧血とされるから、貧血とは血液が薄い状態と表現されるのです。
貧血と診断された、もしくは疑われたら、さらに多くの項目から、なぜ血液が薄くなっているのかを特定していきます。つまり貧血の種類は何かを分類していくわけです。
まずは大きく3つに分類
貧血の種類を特定していくための一般的な方法は、まず赤血球の大きさなどによって以下の3つに分類します。この時点で、貧血の種類を大まかに特定することができます。
- 小球性貧血
- 正球性貧血
- 大球性貧血
これらのどれにあたるのかを判定するために、「赤血球指数」という以下の3つの項目があります。
- MCV
赤血球1個の大きさ(容積)
※赤血球の割合(ヘマトクリット)を赤血球数で割ることで分かります。 - MCH
赤血球1個のヘモグロビン量
※ヘモグロビンを赤血球数で割ることで分かります。 - MCHC
赤血球1個のヘモグロビン濃度
※ヘモグロビンを赤血球の割合(ヘマトクリット)で割ることで分かります。
赤血球指数の参考基準値と計算方法
指数 | 計算式 | 参考基準値 |
MCV | Ht(%)/RBC(×1万/mm3) × 10 | 80≦MCV≦100 |
MCH | Hb(g/dl)/RBC(×1万/mm3) × 10 | 28≦MCH≦32が正常 |
MCHC | Hb(g/dl)/Ht(%) × 100 | 31≦MCHC≦35が正常 |
※基準値は参考です。検査機関などにより違いがあります。
赤血球の分類と疑われる貧血
赤血球指数は3つありますが、どの項目が基準値より高いか低いかで、小球性・正球性・大球性と大きく3つにわけられますが、それぞれに考えられる貧血の種類についてご紹介します。
小球性 | 正球性 | 大球性 | |
MCV | 低 | 正常 | 高 |
MCH | 低 | 正常 | 高 |
MCHC | 低 | 正常 | 正常 |
考えられる貧血 | 鉄欠乏性貧血 二次性貧血 サラセミア など |
再生不良性貧血 溶血性貧血 腎性貧血 など |
巨赤芽球性貧血 など |
貧血のなかでもっとも高い割合を占める鉄欠乏性貧血の場合では、赤血球指数はすべて数値が低くなります。
鉄欠乏性貧血と診断されるまで
鉄欠乏性貧血は、体の中の鉄が不足することが原因で起こる貧血ですから、体内の鉄の量が最大の指標となります。
鉄分は健康を維持ずるためになくてはならない物質の代表的なものです。数ある栄養素のなかでも特に吸収しにくいものとして知られています。
それでは鉄分に関する血液検査の項目と基準値を見ていきましょう。
検査項目 | 基準値 | 単位 | |
男性 | 女性 | ||
血清鉄(Fe) | 60~210 | 50~170 | μg/dl |
総鉄結合能(TIBC) | 250~410 | 250~460 | μg/dl |
不飽和鉄結合能(UIBC) | 120~330 | 110~425 | μg/dl |
フェリチン | 33.8~369.1 | 12.0~129.4 | ng/ml |
検査項目の解説
上記の表における検査項目について解説します。血液の中の鉄は、トランスフェリンというタンパク質と結合して存在しています。
血清鉄(Fe)
血清鉄(Fe)は血液の中に存在する鉄の量を示します。
総鉄結合能(TIBC)
血液中の鉄は、トランスフェリンというタンパク質と結合した状態で存在しています。通常では、約1/3が鉄と結合し、残りが結合していない状態で存在しています。総鉄結合能(TIBC)は鉄に結合することができるトランスフェリンの総量です。
不飽和鉄結合能(UIBC)
不飽和鉄結合能(UIBC)は、鉄と結合していないトランスフェリンです。※Fe+UIBC=TIBCという式が成り立ちます。
フェリチン
フェリチンは、内部に鉄分を貯蔵できるタンパク質です。おもに肝臓・脾臓・心臓などび存在しています。鉄分を貯蔵して、トランスフェリンとの間で鉄の交換を行なって血液中の鉄分(血清鉄)の量を維持する働きがあるので、フェリチンを検査することで、貯蔵鉄の量を調べることができます。
鉄欠乏性貧血での数値
鉄欠乏性貧血は、鉄分が不足することで起こる貧血ですかた、血清鉄はもちろん低下します。
また、鉄分が不足していると、貯蔵鉄を消費し、トランスフェリンを増やして補おうとするので、総鉄結合能(TIBC)と不飽和鉄結合能(UIBC)の数値は共に高くなります。
フェリチンは体の中の鉄の蓄え、つまり貯蔵鉄の指標です。鉄欠乏性貧血ではフェリチンの数値も低くなりますが、鉄欠乏性貧血の前段階である潜在性鉄欠乏状態、つまり隠れ貧血の状態でも低下します。
鉄欠乏性貧血のガイドラインを整理してみる
引用:「日本透析医学会雑誌49巻2号2016」
鉄欠乏性貧血は必ず治る!?
鉄欠乏性貧血は、鉄分が不足していることで起こる貧血ですから、不足している鉄分をしっかり補ってあげれば必ず治るといわれています。
しかし重要なのは、なぜ鉄分が不足しているのかをしっかりと特定する事。ただやみくもに鉄分を補給すれば治ると言うわけではありません。
鉄が不足する原因
鉄分が不足する代表的な3つのケースと対処法をご紹介します。これらのどれか、もしくは重なったときに、鉄分が不足し、鉄欠乏性貧血はおこります。
鉄分がたくさん必要な時期に不足
鉄分の必要量は性別や年齢によって違いがあり、厚生労働省では、日本人が1日の食事からとるべき鉄分の推奨量を性別や年齢別に発表しています。特に成長期や、妊娠中、産後の授乳期、などは鉄分が必要な時期です。
▼詳しくは下記の記事をご参照ください。
鉄分の摂取不足や吸収不良
鉄分はとても吸収されにくい栄養素。その吸収率は約10%とも言われています。それに加え、ダイエットなどによる食事制限や、栄養の偏りなどによって鉄分は不足してしまいます。鉄分は、基本的に食事からしか補給できませんが、驚くほど高い割合で、食事から鉄分を補給できていないとされています。
▼鉄分を摂取することがいかに大変かが分かる記事です。
慢性的な出血による鉄の喪失
女性は定期的に月経による出血があります。そのため、鉄欠乏性貧血を起こす人は圧倒的に女性が多いです。また、消化器の病気や婦人科系の病気などによって、慢性的に出血があることも鉄がなくなってしまう原因の一つ。この場合、鉄を補う事より、その病気を解決し出血を止めることが優先です。
自覚しにくい鉄欠乏性貧血の症状
病気やケガなどによる出血が原因で鉄が急激に失われた場合は、激しい貧血の症状が現れますが、多くの場合は、慢性的に失われる鉄より、補給される鉄の量が少ない状態が長く続くことで起こります。
この場合、ジワジワと鉄がなくなっていくため、症状を自覚しない人が多いとされています。何の自覚症状がなくても検査してみたら重度の鉄欠乏性貧血だったという人も少なくないそうです。
鉄欠乏性貧血の対策で重要なこと。
鉄欠乏性貧血と診断された場合、なぜ鉄分が不足しているのかを知る事が最も重要な事です。何らかの病気による出血が原因であれば、早急な治療が必要になってきます。
しかし多くの原因は、毎日とらないといけない鉄分が不足していること。
私たちには貯蔵鉄という鉄の蓄えがあるので、鉄欠乏性貧血は急には起こりません。鉄分不足が続き、鉄の蓄えがなくなった時に鉄欠乏性貧血と診断されます。底をついた鉄を補充していくのは大変なことです。
そうならないよう、自分に鉄分は足りているのかしっかり把握し、不足しているようであれば、積極的に鉄分を補いましょう。
血液検査は、いま現在貧血があるかを調べる以外にも、私は鉄欠乏性貧血になる可能性があるのかを把握するという重要な意味があります。
血液検査においての基準値とは、病気を疑う目安であり、病気を見つけるための糸口となるものです。基準値の範囲内だから健康、範囲外だから即病気だという事はありません。病院で総合的に診断してもらい、原因にあった対策が大切です。
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